【曽我】物語の舞台にもなった〝梅の里〟、
そして、自然の利を活かした農作物や名産品の〝生産の地〟


昔から広く名の知れた場所である「曽我」。
〝曽我梅林〟〝曾我兄弟ゆかりの地〟〝酒どころ〟…おそらく様々なイメージがあるかと思います。
どこからどこまでを「曽我」と見るかも諸説あると思いますが、今回は、曽我山(曽我丘陵)の麓、御殿場線の「下曽我駅」「上大井駅」周辺の一帯を、〈曽我エリア〉として紹介させていただきます。
同じ自然環境にありつつも、独自の印象を放っている2つの駅周辺。
下曽我駅周辺は、古くから多くの物語の舞台にもなった、歴史ある〝梅の里〟として、また上大井駅周辺は、その自然の利を活かした農作物や名産品の〝生産の地〟として、それぞれの生活を彩っています。
とはいえ、はっきりと2つのゾーンにわかれているかというとそうでもなく、土地区分としても、小田原市の曽我〇〇といった名を持つ町々や下大井、足柄上郡大井町の上大井などが混在し、ゆるやかにエリアをかたちづくっているのです。
〝曽我梅林〟〝曾我兄弟ゆかりの地〟〝酒どころ〟…おそらく様々なイメージがあるかと思います。
どこからどこまでを「曽我」と見るかも諸説あると思いますが、今回は、曽我山(曽我丘陵)の麓、御殿場線の「下曽我駅」「上大井駅」周辺の一帯を、〈曽我エリア〉として紹介させていただきます。
同じ自然環境にありつつも、独自の印象を放っている2つの駅周辺。
下曽我駅周辺は、古くから多くの物語の舞台にもなった、歴史ある〝梅の里〟として、また上大井駅周辺は、その自然の利を活かした農作物や名産品の〝生産の地〟として、それぞれの生活を彩っています。
とはいえ、はっきりと2つのゾーンにわかれているかというとそうでもなく、土地区分としても、小田原市の曽我〇〇といった名を持つ町々や下大井、足柄上郡大井町の上大井などが混在し、ゆるやかにエリアをかたちづくっているのです。
懐かしい昭和の風情を残す、梅の産地であり観梅の名所。

下曽我駅前の風景

下曽我駅周辺は、かつては「曽我原村」「曽我別所村」「曽我谷津村」「曽我岸村」などが点在していましたが、町村制の施行により「下曽我村」として合併、1954年に小田原市に編入したことで、現在のかたちとなりました。
蔵づくり風の駅舎の前に伸びる道には、老舗の和菓子店、地域密着の小型スーパー、元酒屋さんの経営するコンビニ、まちのお肉屋さんなどが並び、今もどこか懐かしい昭和の風情を残しています。
蔵づくり風の駅舎の前に伸びる道には、老舗の和菓子店、地域密着の小型スーパー、元酒屋さんの経営するコンビニ、まちのお肉屋さんなどが並び、今もどこか懐かしい昭和の風情を残しています。
もちろん、食用の梅の産地であり、観梅の名所でもあるのは、みなさまご存知の通り。
2月の梅まつりの時期には、関東三大梅林の1つといわれる〝曽我梅林〟を目指し、多くの観光客が訪れ賑わいます。
また、神奈川県でも1位の収穫量を誇るといわれる梅からつくられる梅干しは、小田原市民のソウルフードでも。2023年度には文化庁の「100年フード」にも認定されました。
7月中旬から8月上旬頃には、各梅農家で土用干しといわれる梅干しづくりが行われ、まちの風物詩ともなっています。
2月の梅まつりの時期には、関東三大梅林の1つといわれる〝曽我梅林〟を目指し、多くの観光客が訪れ賑わいます。
また、神奈川県でも1位の収穫量を誇るといわれる梅からつくられる梅干しは、小田原市民のソウルフードでも。2023年度には文化庁の「100年フード」にも認定されました。
7月中旬から8月上旬頃には、各梅農家で土用干しといわれる梅干しづくりが行われ、まちの風物詩ともなっています。

土用干しの風景
多くの人が知る〝曾我兄弟ゆかりの地〟

そして「曽我」といえば、誰もがすぐに名前を思い浮かべるのが〝曾我兄弟〟。
所領争いにより父親を殺された兄弟が仇討ちを果たす…という史実をもとに、歌舞伎や能などの題材として脚色され、多くの人が知る物語となりました。
その兄弟が、曽我荘を所領していた御家人・曾我祐信の養子となったことから、「曽我」は〝曾我兄弟ゆかりの地〟といわれるようになったのです。
兄弟の菩提寺である城前寺には、兄弟や祐信、兄弟の母親の墓といわれる五輪塔、遺物などが残され、兄・十郎が恋人を偲んで笛を鳴らしたといわれる「忍石」も置かれています。
「忍石」は〝縁結びの石〟ともいわれ、こよりに思い人の名前を書いて結ぶと恋が成就するともいわれていたそうです。
所領争いにより父親を殺された兄弟が仇討ちを果たす…という史実をもとに、歌舞伎や能などの題材として脚色され、多くの人が知る物語となりました。
その兄弟が、曽我荘を所領していた御家人・曾我祐信の養子となったことから、「曽我」は〝曾我兄弟ゆかりの地〟といわれるようになったのです。
兄弟の菩提寺である城前寺には、兄弟や祐信、兄弟の母親の墓といわれる五輪塔、遺物などが残され、兄・十郎が恋人を偲んで笛を鳴らしたといわれる「忍石」も置かれています。
「忍石」は〝縁結びの石〟ともいわれ、こよりに思い人の名前を書いて結ぶと恋が成就するともいわれていたそうです。
「斜陽」の舞台となった〝太宰治ゆかりの地〟
物語にゆかりのある場所としては、文豪・太宰治のベストセラー「斜陽」の舞台になった、実業家・加来金升の別荘(「雄山荘」)も有名なところです。
太宰治の愛人だった歌人・太田静子が、疎開先である雄山荘(加来は親戚)での生活を日記に記し、それが後の「斜陽」のもととなったといわれています。
設定上の舞台は伊豆となっていますが、物語には、梅林など「曽我」を想起させる情景が描かれています。
雄山荘があったといわれるのは、城前寺近くの住宅地。
建物は2009年に不審火により全焼してしまいましたが、太宰治ゆかりの地として、ファンによく知られたエピソードとなっています。
太宰治の愛人だった歌人・太田静子が、疎開先である雄山荘(加来は親戚)での生活を日記に記し、それが後の「斜陽」のもととなったといわれています。
設定上の舞台は伊豆となっていますが、物語には、梅林など「曽我」を想起させる情景が描かれています。
雄山荘があったといわれるのは、城前寺近くの住宅地。
建物は2009年に不審火により全焼してしまいましたが、太宰治ゆかりの地として、ファンによく知られたエピソードとなっています。

曽我梅林
芥川賞作家・尾崎一雄が描いた「下曽我から見る富士山」
その太宰治の生まれる10年ほど前、曽我の総鎮守・宗我神社の神主の家に生まれたのが、芥川賞作家でもある私小説家・尾崎一雄。
1944年に病気のために帰郷し、地元で療養生活を送りながら、身のまわりの風景や生き物、生活などを見つめながら、数多くの物語を描きました。
特に代表作のひとつ「虫のいろいろ」に書かれた、下曽我から見る富士山についての文は印象深く、宗我神社にある文学碑にも刻まれています。
「富士は天候と時刻とによって
身じまひをいろいろにする
晴れた日中のその姿は平凡だ
真夜中 冴え渡る月光の下に
鈍く音なく白く光る富士 未だ
星の光りが残る空に 頂近くは
バラ色 胴体は暗紫色にかがやく
暁方の富士」
(尾崎一雄「虫のいろいろ」より)
1944年に病気のために帰郷し、地元で療養生活を送りながら、身のまわりの風景や生き物、生活などを見つめながら、数多くの物語を描きました。
特に代表作のひとつ「虫のいろいろ」に書かれた、下曽我から見る富士山についての文は印象深く、宗我神社にある文学碑にも刻まれています。
「富士は天候と時刻とによって
身じまひをいろいろにする
晴れた日中のその姿は平凡だ
真夜中 冴え渡る月光の下に
鈍く音なく白く光る富士 未だ
星の光りが残る空に 頂近くは
バラ色 胴体は暗紫色にかがやく
暁方の富士」
(尾崎一雄「虫のいろいろ」より)
豊富な水がめぐるまちで発展した〝日本酒〟づくり


文豪たちも愛した、「曽我」の雄大な自然。
その豊かさをストレートに享受し、活かし、めぐらせているのが、上大井駅周辺のあたりかもしれません。
「大井」は、もともと「大堰(おおい)」=〝大きな堰〟からきた名前といわれています。
〝堰〟とは、水をせきとめて用水をたたえておく、小さなダムのようなもの。
実際に、上大井駅周辺のまちのあちこちには川や用水が流れ、どこにいても水の音が響いています。
山々から湧き出る豊富な水がまちをめぐり、水田を潤し、土を育み、作物や木々にも実りをもたらしているのです。
その豊かさをストレートに享受し、活かし、めぐらせているのが、上大井駅周辺のあたりかもしれません。
「大井」は、もともと「大堰(おおい)」=〝大きな堰〟からきた名前といわれています。
〝堰〟とは、水をせきとめて用水をたたえておく、小さなダムのようなもの。
実際に、上大井駅周辺のまちのあちこちには川や用水が流れ、どこにいても水の音が響いています。
山々から湧き出る豊富な水がまちをめぐり、水田を潤し、土を育み、作物や木々にも実りをもたらしているのです。
このまちで、水とお米を材料とする〝日本酒〟づくりが発展してきたのも当然のことかもしれません。

井上酒造

石井醸造
寛政元年創業の「井上酒造」は、「箱根山」で知られる酒蔵。
富士山東麓から流れる酒匂川の水を仕込み水として使用。米本来の味を生かした日本酒を目指し、伝統的な製法を守りながら、時代のトレンドも踏まえて製造しています。
明治3年創業の「石井醸造」は、「曾我の譽」で知られる酒蔵。
「曾我の譽」は丹沢山系の伏流水を仕込み水として使用。もろみを4回にわけて仕込む四段仕込みや、もち米を使うことにより出るコクにこだわり製造しています。
競合でありながらも互いにリスペクトし合い、同じ地で酒づくりを続けている2つの酒蔵。
気軽に酒蔵を訪れることは難しいかもしれませんが、そのお酒を味わうことで、この地の自然の恵みや、培ってきた歴史を感じることができるのではないでしょうか。
富士山東麓から流れる酒匂川の水を仕込み水として使用。米本来の味を生かした日本酒を目指し、伝統的な製法を守りながら、時代のトレンドも踏まえて製造しています。
明治3年創業の「石井醸造」は、「曾我の譽」で知られる酒蔵。
「曾我の譽」は丹沢山系の伏流水を仕込み水として使用。もろみを4回にわけて仕込む四段仕込みや、もち米を使うことにより出るコクにこだわり製造しています。
競合でありながらも互いにリスペクトし合い、同じ地で酒づくりを続けている2つの酒蔵。
気軽に酒蔵を訪れることは難しいかもしれませんが、そのお酒を味わうことで、この地の自然の恵みや、培ってきた歴史を感じることができるのではないでしょうか。
自然の中に人が暮らし、建物が建ち、電車が走り、車が走る。
ゆったりとした生活感。


下大井の保安寺には地元で知られる名水も。遠くからペットボトル持参で来られる方もいるそう。
また、上大井駅周辺の原風景ともいえるのが、どこまでも田畑や果樹園の広がる美しい眺め。
自然の中に人が暮らし、建物が建ち、電車が走り、車が走るような、どこかゆったりとした生活感。
山の麓すぐに線路があることで、どうやら山からの野生動物の侵入を防いでいる側面もあるよう。
自然が恵み、人の知恵や工夫が活かし、結果的に守ってもいる。このまちらしい循環です。
自然の中に人が暮らし、建物が建ち、電車が走り、車が走るような、どこかゆったりとした生活感。
山の麓すぐに線路があることで、どうやら山からの野生動物の侵入を防いでいる側面もあるよう。
自然が恵み、人の知恵や工夫が活かし、結果的に守ってもいる。このまちらしい循環です。

和田農園の無人販売機
下大井で果樹園やお米の栽培をしている「和田農園」では、鶏に育てた生産物なども与えて、その卵を無人販売機で近所の人に向けて販売しています。
梅や柿、みかんをはじめ、数多くの種類の果樹を育てているものの、それぞれシーズンが少しずつずれるように計画してつくられているため、そこまでハードワークではないそう。
とはいえ、1年の大半が農園に関わる時間。
それでも苦でないと言い切れるのは、様々な生産物を育てることを楽しみ、喜べる土壌が、このまちや暮らす人たちにあるからかもしれません。
梅や柿、みかんをはじめ、数多くの種類の果樹を育てているものの、それぞれシーズンが少しずつずれるように計画してつくられているため、そこまでハードワークではないそう。
とはいえ、1年の大半が農園に関わる時間。
それでも苦でないと言い切れるのは、様々な生産物を育てることを楽しみ、喜べる土壌が、このまちや暮らす人たちにあるからかもしれません。

収穫間際の梅の樹(和田農園)

シーズンにはミツバチも受粉をお手伝い(和田農園)

植えかえたばかりの梅の木の奥に20〜30年選手の木々、その奥には連なる山々と富士山(和田農園)
広がる田畑や果樹園の中、
のんびりとお茶を飲み、会話し、仕事を。

SOGA BLEND
そして、〈曽我エリア〉近年最大のトピックといえば、下大井にあった旧曽我支所がリニューアルし、コミュニティカフェ兼コワーキングスペース「SOGA BLEND」となったこと。
地域の人の交流の場所でもあった空気はそのままに、広がる田畑や果樹園の中、のんびりとお茶を飲み、会話し、仕事をすることができます。
地域の人の交流の場所でもあった空気はそのままに、広がる田畑や果樹園の中、のんびりとお茶を飲み、会話し、仕事をすることができます。

コワーキングスペース(SOGA BLEND)

あちこちに地域のアーティストの作品が展示(SOGA BLEND)

玄関でスリッパに履き替えてカフェスペースへ(SOGA BLEND)
また、施設のあちこちには地域のアーティストの作品が飾られ、和室&縁側のカフェスペースにはレコードプレーヤーから音楽が流れ、コワーキングスペースにはたくさんの本も。
イベントも頻繁に開催されており、楽しみ方は無限大です。
通常はカフェ「ヒカリヲテラス」の営業日である水・日のみオープン(2025年6月現在。他曜日にイベント開催の可能性あり)となっていますが、その貴重な日を心待ちにしている人も多いのではないでしょうか。
イベントも頻繁に開催されており、楽しみ方は無限大です。
通常はカフェ「ヒカリヲテラス」の営業日である水・日のみオープン(2025年6月現在。他曜日にイベント開催の可能性あり)となっていますが、その貴重な日を心待ちにしている人も多いのではないでしょうか。

カフェスペース(SOGA BLEND)
ひとことで〈曽我エリア〉といっても、2駅間だけでも歩くには相当な道のり(40分程度)。
けれど、電車に乗っているだけではもったいない。車で移動ももったいない。
ぜひ駅や目的地の周辺だけでも、のんびり歩きながら、豊かな自然や、培ってきた歴史、文化、暮らしているみなさんの醸し出す空気を、味わってみてはいかがでしょうか。
けれど、電車に乗っているだけではもったいない。車で移動ももったいない。
ぜひ駅や目的地の周辺だけでも、のんびり歩きながら、豊かな自然や、培ってきた歴史、文化、暮らしているみなさんの醸し出す空気を、味わってみてはいかがでしょうか。